不遇のモダン・フォルクロリスタ、ミゲル・サラビアのこと

不遇のモダン・フォルクロリスタ、ミゲル・サラビアのこと

 2010年に我々の個人招へいで来日したアグスティン・ペレイラ・ルセーナと滞在中いろいろな話をした中で、ちょっと面白い話題があったのを思い出したのでこの機会に記しておきたいと思う。
 アグスティンはお兄さんが買ってきたジョアン・ジルべルトのレコードに大きな影響を受けたのだが、他にも当時アグスティンが聞いたいろいろな音楽の話をしていた。アストル・ピアソラはよく聞いたそうで(アルバム「ヌエストロ・ティエンポ」「タンゴ・パラ・ウナ・シウダー」は当時買ったレコードをその後自宅で見せてもらった)、ボレロもよく聞いていて、特にメキシコのロス・トレス・アセスが好みだったそうだが、アルゼンチンのトリオ、ロス・フェルナンドスもよく聞いたという(かつて日本でも東芝からシングル盤が出ていたことがある)。その後フォルクローレの話になったのだが、そこで出てきた名前がミゲル・サラビア (Miguel Saravia)だった。

 残念なことに日本では1曲も発売されたことがなく、私の知る限り全世界で1曲もCD化されていないというあまりにも不遇なアーティストだが、アグスティンによれば「アルゼンチン・フォルクローレ界のジョアン・ジルベルト」と呼べる存在だったという。1965年にアストル・ピアソラもかつて出演していたブエノスアイレスの音楽クラブ「676」に出演、エンリケ・ビジェーガス、グルーポ・ボカル・アルヘンティーノ、ロドルフォ・メデーロスらとステージを分かち合ったという。「676」に集まるハイセンスな音楽ファンの支持を受け、その頃CBSでの最初のアルバム「エル・ペルソナル・エスティロ・デ・ミゲル・サラビア」を発表、好評を得る。その後もCBSから継続的にアルバムを出し、コアな音楽ファンから評価される一方、いわゆるフォルクローレ・ファンからははっきり拒絶されたという。1970年代にもTROVA、CABALといった高い音楽性を持つ作品を多数リリースしてきたマイナー・レーベルでアルバムを制作し続けるが、1980年代にアルバムを出した形跡はなく、1989年5月26日、まだ46歳の若さで世を去ってしまう。

 うかつにも私はアグスティンから話を聞くまで数曲しか聞いたことがなかったが、その後、いろいろ探して6枚のアルバムを入手できた(ある資料によれば全部で14枚のアルバムがあるらしい)。アルバムごと・時代ごとに多少雰囲気は異なるのだが、ギターのスタイルやモダンなハーモニー、クールなボーカルは明確にボサノーヴァの影響を想像させるもの。レパートリーに古典的な作品は少なく、自作が多い。他にアストル・ピアソラ、ロブスティアーノ・フィゲロア・レジェス(有名な歌手エルナン・フィゲロア・レジェスの弟)、マリア・エレーナ・ワルシュ、テハーダ・ゴメス、エドムンド・リベーロ・イホ、そしてアグスティンの親友でもあった在アルゼンチンのブラジル人音楽家パウリーニョ・ド・ピーニョの作品もある。

 今彼の録音を聞くと伝統的なファンから拒絶されるほどモダンだったとは思えない。もともとトゥクマンの家の出であり(ただ彼自身は家族が一時的に引っ越していたサン・ルイスで生まれたらしいが)、フォルクローレの伝統も体現しつつ、ロック、ビートルズ、ジョアン・ジルベルトを自然に体現してきたアーティストだっただけだと思うのだが、少し時代が早すぎたのだろうか。今活動を続けていれば、フォルクローレと他ジャンルの境界線がにじみ始め、状況が変化していく中で、先駆者として再評価される機会もあっただろうに...。彼の歌う「ハシント・チクラーナ」「クチ・レギサモンの肖像」などを聞くと、もっともっと可能性を持ったアーティストだったと思えて残念だ。
願わくはせめていくつかの傑作アルバムがCD化されることを期待したい。

ちなみに私の手元にあるアルバムは以下の6枚である。

CBS 19758 El personal estilo de… Miguel Saravia (CBS 8610の再発盤)(1965)
CBS 8674 La “Nueva forma” de … Miguel Saravia (1966?)
TROVA XT-80013 La importancia de una pausa (1972)
CABAL LPC-5011 De Miguel...
CABAL LPC-5046 Miguel Saravia
UNION Records UR1001 Nueva musica argentina (1977)

El personal estilo de...
De miguel


まだ未入手のアルバムがだいぶあるはずなので、ゆっくり集めていければと思う。
今回手元のアルバムを見直していて気がついたことがある。下のジャケット写真をご覧いただきたい。タバコを吸いながらギターを弾いている写真なのだが、タバコを右手の薬指と小指の間に挟んでいるのである。これはアグスティンがバーデン・パウエルがやっていることを知って真似していたのと同じスタイルである。ひょっとしてサラビアもバーデン・パウエルに感化されていたのだろうか。
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