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ファン・ファルー来日に寄せて Bienvenido a Juan Falu

ついに来日するファン・ファルーの軌跡Juan Falu Lo Mejor165

アルゼンチン現代フォルクローレ界における最良のギタリスト・作曲家の一人、フアン・ファルーがまもなく来日公演を行う。数多くのCDや他アーティストへのゲスト参加などによって、その端正な弾きっぷりに惹かれた人も多いだろう。せっかくの機会なので、これまでフアン・ファルーが制作してきたアルバムをまとめておこう。
いつもフォルクローレ・アーティストを調べる時の拠り所であるDiccionario Biografico de la musica argentina de raiz folkloricaによると、アルベルト・フアン・ファルーは1948年10月10日、サン・ミゲル・デ・トゥクマン生まれ。アマチュアのギター愛好家だった父の影響を受けギターを始め、1966年、16歳の時にコンクールで優勝、記念に地元で制作されたオムニバス・アルバム”Tucuman canta a la Patria”に初録音を残したという。1976年から軍政を嫌ってブラジルに亡命、1984年まで滞在し、ブラジルでは「タランコン」というグループに参加した。帰国後数多くのアーティストとの共演が始まり、ギターを教える傍ら、アルゼンチン・フォルクローレの重要なプロジェクトやコンサート・シリーズに関わるようになる。以後ヨーロッパ、中南米各国、アジアなど海外公演も数多く、多くのアーティストの尊敬を集めるマエストロである。

これまで制作したアルバムは単独名義で10点ほど、共演盤はそれよりも数が多い。リストにはいれていないが、ゲストで数曲参加したものもかなりの数にのぼる。手元になくて内容未確認のものもいくつかあるのだが、一通りリストアップしておこう。

Cacto (Brasil) Canticorda / Deo Lopes & Juan Falu (1982)
Todas Las Voces Con la guitarra que tengo (1986) (Long Play)
Todas Las Voces Luz de giro (1987) (Long Play)
Circe De la raiz a la copa (1990) (Long Play)
Loco & Lev(Francia) La Saveur de la Terre / Juan Falu & Ricardo Moyano (1991) (Reedicion)
? Encuentro / Juan Falu & Chito Zeballos (en vivo en Neuquen)
EPSA Leguizamon-Castilla por Liliana Herrero & Juan Falu (2000)
EPSA Diez años / Juan Falu (2000)
EPSA Folklore argentino-Improvisaciones / Juan Falu & Marcelo Moguilevsky (2003)
EPSA A mi Ñano / Juan Falu
EPSA Encuentros y soledades / Juan Falu & Ricardo Moyano (1998)
EPSA Semites / Juan Falu & Marcelo Moguilevsky (2003)
EPSA Falu-Davalos por Liliana Herrero & Juan Falu (2004)
EPSA Manos a la obra / Juan Falu
EPSA En vivo Vendome-Francia / Juan Falu
Independiente  Coquita y alcohol / Juan Falu, Willy Gonzalez & Rodolfo Sanchez (2007)
Altais Music Manos en libertad / Jorge Cardoso & Juan Falu (2007)
EPSA Baisanos / Oscar Alem & Juan Falu (2009)
EPSA Lo mejor de Juan Falu (EPSAレーベルのベスト盤)(2011)
B&M Zonko querido / Juan Falu (2012) (2CD)
B&M En vivo 1995 – 2012 / Juan Falu (2012)
B&M Ronda de amigos / Juan Falu (2012)


やはり共演盤の多さが際立つ。もちろんソロも素晴らしいのだが、さまざまな個性を持った共演者やゲストと一緒だとさらに力を発揮する。旧作では歌手リリアナ・エレーロとの共演2枚がとにかく素晴らしいと思う。マルチ管楽器奏者のマルセロ・モギレフスキーとの共演は、かなりタイプのちがう2人が中和点を見つけて演奏している感じが面白い。キケ・シネシとモギレフスキーの共演と比較すると、楽器は同じでも基本スタンスがだいぶ違うような気がする。あと個人的にはオスカル・アレム(ピアノ)とのドュオ「バイサーノス」(2006年のライヴ録音だが、発売は2009年)がとても印象深かった作品だ。
Juan Falu Liliana Leguizamon 167Juan Falu Oscar Alem Baisanos168

最新作はB&Mレーベルだが、番号がなく、自主制作っぽいCD3組で、同じスタイルのジャケットデザインの色違いになっている。まだ日本に入ってきているのは2枚組の新録音「ソンコ・ケリード」だけだと思う(私もこの1点だけ昨年9月にアルゼンチンで買ってくることが出来た)。この「ソンコ・ケリード」はまさしくファン・ファルーの芸能生活50周年の集大成といえる内容で、CD2枚組計37曲すべてファン・ファルーの作曲で、歌の曲はロべルト・ジャコムッシ、ペペ・ヌニェスらの詞を得ている。ギター・ソロと弾き語りを中心に、バルバラ・ストレヘルのフルートが計10曲に参加(これがきりっとクラシカルでアルバム全体のアクセントになっている)、他にもルベン・ロボのパーカッション、リリアン・サバのピアノ、マルセロ・チオディのフルートなどの入る曲があり、ゲスト歌手でフアン・キンテーロ(2曲)、フロレンシア・ベルナレス、ビジ・コルテセが参加。1枚目と2枚目には大きな差はないが、2枚目の方がいつもとは少し異なるクラシカルなものやブラジル調の曲、ボレロまで含まれており、最後には弦楽五重奏団との組曲「ギターと弦楽五重奏のための5作品」が収録されている。
Juan Falu Zonko querido166

最新作あとの2点はフアン・ファルーのHPのディスコグラフィーに載っているもので、内容は未確認だが、曲目を見る限りかなり興味深く、特にさまざまなアーティストとの共演を集めた「ロンダ・デ・アミーゴス」にはすごい顔ぶれがずらりと並んでおり、ぜひ聞いてみたいものだ。

 昨年惜しくも世を去ったフアン・ファルーの叔父、エドゥアルド・ファルーの正確で的確な弾きっぷりを受け継いだ部分もあるが、、その音色はひたすら暖かく、時に「冷たい」と言われることもあったエドゥアルド・ファルーのクラシカルなスタイルとは一線を画しているとも言える。音楽性もより幅広く、アルゼンチン・フォルクローレの諸形式はもちろん、亡命時代を過ごしたブラジルで身に着けたものも潜在的に彼の音楽性の個性を形作っている。指導者としても大変重要な存在で、昨年私がブエノスアイレスで見たリリアン・サバ=マルセロ・チオディ=トリオMJCの共演コンサートも、もともとフアン・ファルー監修のコンサート・シリーズであった(その時フアンはヨーロッパ・ツアー中だったので現場には来なかった)。

 昨年来日ツアーを行って好評だった若手ギタリストのギジェルモ・リソットの音楽の、いわばより根っこに近い部分にあるのがファン・ファルーの音楽といっていいだろう。昨年リソットを聞いた方が今回ファン・ファルーの音を聞けばギターの音色にかなり多くの共通点を見出されるのではないかと思う。
 どんなレパートリーで今回の公演をまとめてくるのか、とても楽しみだ。

ギジェルモ・リソット名古屋公演(2013年6月6日)セットリスト

ギジェルモ・リソット名古屋公演(2013年6月6日) セットリスト
Guillermo Rizzotto en Nagoya, Café Dufi, 6 de junio de 2013

先日行われたアルゼンチンのギタリスト、ギジェルモ・リソットのソロ公演のセット・リストです。
本人のFacebookにもある通り、第2部はのってしまって70分を超える熱演でした。

Primera parte 第Ⅰ部
1. Yaravi – Criollita mi alma(ヤラビ~わが心のクリオジータ)
2. Gato del agua (水のガト)
3. Naturaleza en tu vientre(お腹の中の君の自然)
4. Triunfo del corazon(心のトリウンフォ)
5. A Eduardo Mateo(エドゥアルド・マテオに捧ぐ)
6. Milonga de la espera(待つことのミロンガ)
7. El gato sin cabeza(頭のないガト)

Segunda parte 第Ⅱ部
1. Y se escucha el rio(そして川の音を聞いている)
2. Te vere en Las Piedras(私はラス・ピエドラスで君と会うだろう)
3. Pieza No.2 (作品第2番)
4. Introspeccion en la Murtra(サン・ジェロニ・デ・ラ・ムルトラ修道院での自己分析)
5. Permaneces en mi(君は私の中にとどまっている)
6. Rio solo(ただ川だけ)
7. Gato por liebre(野ウサギによるガト)
8. Agua que manda(送る水)
9. Carnavalito(カルナバリート)
10. Zamba sola(ただサンバだけ)
11. Cueca de la libertad(自由のためのクエカ)
12. L’imaginaire(リマジネール)(想像界)
13. Yo no como un gato(私は猫は食べない)
14. Chaya sola(ただチャジャだけ)

※コンサート中、ギジェルモ本人がアナウンスしなかった曲のタイトルは別途確認しました。邦題は西村による訳です。ガト、トリウンフォ、チャジャ、サンバ、カルナバリート、ヤラビ、クエカ、ミロンガはいずれもアルゼンチン伝統音楽の形式名です。(文責:西村秀人)

ギジェルモは今回名古屋に前日入りしたこともあって、いろんな話をしました。何より古い音源などを実によく研究しているので驚きました。この辺はまた機会をみてまとめようと思っています。

日本タンゴ楽団の栄光
~ティピカ東京&ティピカ・ポルテニヤの海外ツアーとその反響


 かつて日本のタンゴ楽団が長期にわたる海外公演を成功させていたことは、タンゴ・ファン以外にはあまり知られていない。その最初は1964年のことで、早川真平とオルケスタ・ティピカ東京、藤沢嵐子、阿保郁夫、柚木秀子というフルメンバーで行った南米ツアーだった(早川と藤沢のみそれ以前の1953、54、56年の3回アルゼンチンへ渡っており、その時藤沢の歌が反響を呼び、ラジオ出演やレコード録音を行ったことがその後の楽団全体のツアーの下敷きになっている)。アルゼンチンのテレビ番組出演がツアーのきっかけで、ナイトクラブ出演、地方公演やレコード録音も行い、さらにウルグアイ、チリ、ペルー、コロンビア、エクアドル、メキシコで公演、約9ヶ月にわたる大規模なツアーとなった。ツアー中、以下のレコードが録音された。

①RCA Victor AVL3527(アルゼンチン)TANGO EN KIMONO(=日本盤「タンゴ・エン・キモノ」 RMP-5047(S))
②RCA Victor AVL3543(アルゼンチン)ORQUESTA TIPICA TOKIO
(日本盤ビクター SHP-5538「ブエノスアイレスのオルケスタ・ティピカ東京」は①と②からの編集)
③東芝 OP-7122 「ブエノスアイレスの藤沢嵐子」(ミゲル・カロー楽団、うち6曲が藤沢嵐子歌)
④RCA Victor 05(0131)02170(コロンビア) TANGO EN KIMONO Vol.II(アルゼンチン/ペルー録音)
⑤RCA Victor IES-69(コロンビア)LA TIPICA TOKIO EN COLOMBIA
⑥RCA Victor F-LSP-5(ペルー)ORQUESTA TIPICA DE TOKIO

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 残念ながら現在これらの音源がほとんどCDに復刻されていないのは残念なことだ。また、このツアー期間中、アルゼンチン映画”Viaje de una noche de verano”「夏の一夜の旅」にも出演している。

さらに1966年1月には坂本政一とオルケスタ・ティピカ・ポルテニヤ(海外ではオルケスタ・サカモト)、阿保郁夫、国井敏秋がアルゼンチン公演に出発する。楽団はその後近隣諸国をめぐり、さらにティピカ東京ツアーでは訪れなかったベネズエラ、スペイン、プエルトリコ、アメリカ合衆国まで足を伸ばし、結局1年以上ツアーを続けた。ただし最後期には、阿保・坂本らは先に帰国、残った楽団はメキシコ人メンバーなども加え、ラテンのレパートリーを中心にしたショウ・バンドになっていたが、それも結局プロモーターの持ち逃げによって現地解散となった(この時64年ティピカ東京公演にも参加し、2回目の海外ツアーだったバンドネオンの岩見和雄とバイオリンの岩城喜一郎はニューヨークに残ることを選んでいる)。このツアーの間に録音されたものに以下がある。

①BELTER 22159(スペイン)TANGOS / ORQUESTA TIPICA SAKAMOTO
②CARIBE LP0004(ベネズエラ)SERENATA ORIENTAL / ORQUESTA SAKAMOTO
③GILMAR L.P.021(ベネズエラ)ORQUESTA SAKAMOTO(録音はプエルトリコか?)
④ALEGRE SLPA-8660(北米) ORQUESTA SAKAMOTO DEL JAPON At the Chateau Madrid

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阿保郁夫の他に、女性歌手として高たか子が参加、さらに①②には国井敏秋、③④には国井に代わって高沢ひとし(ホセ高沢)が参加している。①と④がアメリカでCD化されている。資料によれば最後期この楽団は「オルケスタ・セレナータ・オリエンタル・フジヤマ」の名で公演していたが、その流れと思われる17センチ盤4曲入りレコードが手元に1枚ある。

No number ORQUESTA SHOW FUJIYAMA-Exitos Vol.III canta HITOSHI TAKASAWA

「第3集」とあるのであと2枚あるのだろう。実際に聞いてみると伴奏は普通のマリアッチであり、おそらくはホセ高沢が坂本楽団解散後にメキシコで「フジヤマ」の名前を使って単独で仕事をしたものと思われる。レーベル名も番号もない17センチ盤だが、盤やマトリックスの刻印などの感じはメキシコOrfeonレーベルのものだ。

この2楽団のツアーがどれだけの反響を持っていたかを物語る興味深い別の資料がある。それは両楽団の人気に便乗して制作されたと推測されるレコードの存在である。私の手元にあるレコードを紹介する。

Tipica+de+Tokio+Adria+LP+469_convert_20130215225043.jpg

(a) ADRIA AP-64 Los grandes éxitos de la ... TIPICA DE TOKIO – Canta Rubén Maldonado
「テイピカ・デ・トキオ・大ヒット曲集」なので本人の演奏でなくてもいいわけだが、中身は普通のタンゴ名曲集でティピカ東京のレパートリーでないものもあるので、基本的には単なる便乗。歌っているルベン・マルドナードはアルゼンチン人で、長くコロンビアに暮し、スペインで歌っていた時期もある歌手。レーベルの方には「ルベン・マルドナード&ティピカ・デ・ハポン(日本)」と書かれているが、日本人の楽団とは思えない。フィーリングは本格的だが、コロンビア録音を便乗商品に仕立てたものか。

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(b)BINGO B-46 Tangos argentinos – ORQUESTA TIPICA DE TOKIO
「ティピカ・デ・トキオ」になっているが、ジャケット写真の女性も東南アジア人のようだし、収録曲の作者データもない怪しいレコード。有名曲は「灰色の午後」と「セ・ティラン・コンミーゴ」「ミロンガ・デル・ソリタリオ」ぐらいであとは正体不明。「タクシー・ガールズ」なんてタイトルのミロンガもある。演奏は本格的だが、ティピカも小編成もギター伴奏もあって楽器編成・音質共に一定しない。歌手は少し線が細いタイプや下町風など少なくとも数人含まれているようだがアルゼンチン人だろう。しかし日本のタンゴ楽団との関連は見いだせず、要は阿保の持ち歌「灰色の午後」が入っているだけで無理やり便乗商品に仕立てただけ?

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(c)Ricky Records RICKY-116 The Best of SAKAMOTO – Enrique Mendez y su orquesta tipica
「ベスト・オブ・サカモト」と大書してあるが、端っこに目立たない色で「エンリケ・メンデス楽団」と書いてある。メンデスはアルゼンチン人バンドネオン奏者で早くからアメリカ合衆国に渡り活動、北米に来たタンゴ歌手の伴奏や、タンゴ・ダンス・ショウの先駆者フアン・カルロス・コぺスの北米公演にも参加している。Ricky Recordsには単独アルバムを残しており、ここの6曲も実はそこからとったもの。演奏はなかなかしっかりしているのだが、曲目がほとんど坂本楽団と無関係。残り半分には歌が入っていて、歌手はアメリカで中南米の音楽を幅広く歌っていたマリア・ルイサ・ブチーノ。こちらには「ポルケ・ラ・キセ・タント」「海に向かって」など入っているのでまだ坂本楽団のレパートリーに近い。ただジャケットの建物は見事に中国系。横の女性も日本人ではなさそうだ。

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(d)Ibersound IB-602 Tangos de arrabal – ORQUESTA TIPICA JAPON
こちらもかなり妙なレコードで、まずジャケットがどう見ても日本ではない。タイかインドネシアあたりの風景だ。内容の方は一見すると有名曲は少ないのだが、聞いてみると、「イルシオン」とあるのが「インディフェレンシア」、「エル・プレシディアリオ」は「ア・ラ・ルス・デル・カンディル」、「君の最後の手紙」は「テ・アコンセホ・ケ・メ・オルビデス」、「ベンタロン」はマフィアのそれではなく、ディセポロの「セクレト(秘密)」。曲のあとに作者と思しき人の名前が書いてあり、2曲にホセ・バロス、4曲にホアキン・モラの名が記されている。ホセ・バロスは「漁師のクンビア」の大ヒットで知られるコロンビアの作曲家、ホアキン・モラはアルゼンチン人バンドネオン/ピアノ奏者で、珍しく黒人の血を持ち、「椿姫」「あのお姫様のように」「マス・アジャ」など独特のロマンティックなメロディーを持った異色作で知られる人物。モラは1940年代から中米諸国を放浪したが、特にコロンビアには長くとどまり、タンゴ歌手の伴奏レコードも残している。全体に伴奏が頼りないので(特にバイオリン)、外地(おそらくコロンビア)の録音であることは間違いないが、歌手は明らかにガルデル~ウーゴ・デル・カリルを意識したスタイルのものが多く(すべて同一人物とは思えない)、レパートリーが渋めなので、アルゼンチンの歌手だろう。タンゴ歌手のコロンビア録音あたりを調べると元ネタが割れそうだ。収録曲の中に作者として中米で長く活動した歌手ラウル・ディ・アンヘロの名があるのも気にかかる。

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(e)La Playa Records LP-907 Tangos sicodelicos – ORQUESTA TIPICA JAPONESA
これはある意味極め付きの1枚。アルバム・タイトルが「サイケデリック・タンゴ」なので初めはびっくりしたが、よく考えると坂本楽団が成功した1966~67年はアメリカ西海岸を中心にサイケが流行した時期と重なる。だからといって「オルケスタ・ティピカ・ハポネサ」(日本のオルケスタ・ティピカ)と結びつけるのも意味不明だし、もっと不可解なのは内容がきわめてまっとうなアルゼンチン・タンゴで、サイケな要素がどこにもないことだ。「さらば草原よ」「追憶(レメンブランサ)」という有名曲が2曲が入っているが、あとは無名作者のタンゴ。やはりすべての曲を同一人物がやっているようには思えないが、演奏はなかなか本格的なものである。

結局謎だらけの5枚なのだが、はっきり言えるのは1960年代半ば~後半に日本のタンゴ楽団が中南米諸国や米国のヒスパニック系の間でにわかに話題になり、便乗商品が作られるほどの人気を博していたということだ。

不遇のモダン・フォルクロリスタ、ミゲル・サラビアのこと

不遇のモダン・フォルクロリスタ、ミゲル・サラビアのこと

 2010年に我々の個人招へいで来日したアグスティン・ペレイラ・ルセーナと滞在中いろいろな話をした中で、ちょっと面白い話題があったのを思い出したのでこの機会に記しておきたいと思う。
 アグスティンはお兄さんが買ってきたジョアン・ジルべルトのレコードに大きな影響を受けたのだが、他にも当時アグスティンが聞いたいろいろな音楽の話をしていた。アストル・ピアソラはよく聞いたそうで(アルバム「ヌエストロ・ティエンポ」「タンゴ・パラ・ウナ・シウダー」は当時買ったレコードをその後自宅で見せてもらった)、ボレロもよく聞いていて、特にメキシコのロス・トレス・アセスが好みだったそうだが、アルゼンチンのトリオ、ロス・フェルナンドスもよく聞いたという(かつて日本でも東芝からシングル盤が出ていたことがある)。その後フォルクローレの話になったのだが、そこで出てきた名前がミゲル・サラビア (Miguel Saravia)だった。

 残念なことに日本では1曲も発売されたことがなく、私の知る限り全世界で1曲もCD化されていないというあまりにも不遇なアーティストだが、アグスティンによれば「アルゼンチン・フォルクローレ界のジョアン・ジルベルト」と呼べる存在だったという。1965年にアストル・ピアソラもかつて出演していたブエノスアイレスの音楽クラブ「676」に出演、エンリケ・ビジェーガス、グルーポ・ボカル・アルヘンティーノ、ロドルフォ・メデーロスらとステージを分かち合ったという。「676」に集まるハイセンスな音楽ファンの支持を受け、その頃CBSでの最初のアルバム「エル・ペルソナル・エスティロ・デ・ミゲル・サラビア」を発表、好評を得る。その後もCBSから継続的にアルバムを出し、コアな音楽ファンから評価される一方、いわゆるフォルクローレ・ファンからははっきり拒絶されたという。1970年代にもTROVA、CABALといった高い音楽性を持つ作品を多数リリースしてきたマイナー・レーベルでアルバムを制作し続けるが、1980年代にアルバムを出した形跡はなく、1989年5月26日、まだ46歳の若さで世を去ってしまう。

 うかつにも私はアグスティンから話を聞くまで数曲しか聞いたことがなかったが、その後、いろいろ探して6枚のアルバムを入手できた(ある資料によれば全部で14枚のアルバムがあるらしい)。アルバムごと・時代ごとに多少雰囲気は異なるのだが、ギターのスタイルやモダンなハーモニー、クールなボーカルは明確にボサノーヴァの影響を想像させるもの。レパートリーに古典的な作品は少なく、自作が多い。他にアストル・ピアソラ、ロブスティアーノ・フィゲロア・レジェス(有名な歌手エルナン・フィゲロア・レジェスの弟)、マリア・エレーナ・ワルシュ、テハーダ・ゴメス、エドムンド・リベーロ・イホ、そしてアグスティンの親友でもあった在アルゼンチンのブラジル人音楽家パウリーニョ・ド・ピーニョの作品もある。

 今彼の録音を聞くと伝統的なファンから拒絶されるほどモダンだったとは思えない。もともとトゥクマンの家の出であり(ただ彼自身は家族が一時的に引っ越していたサン・ルイスで生まれたらしいが)、フォルクローレの伝統も体現しつつ、ロック、ビートルズ、ジョアン・ジルベルトを自然に体現してきたアーティストだっただけだと思うのだが、少し時代が早すぎたのだろうか。今活動を続けていれば、フォルクローレと他ジャンルの境界線がにじみ始め、状況が変化していく中で、先駆者として再評価される機会もあっただろうに...。彼の歌う「ハシント・チクラーナ」「クチ・レギサモンの肖像」などを聞くと、もっともっと可能性を持ったアーティストだったと思えて残念だ。
願わくはせめていくつかの傑作アルバムがCD化されることを期待したい。

ちなみに私の手元にあるアルバムは以下の6枚である。

CBS 19758 El personal estilo de… Miguel Saravia (CBS 8610の再発盤)(1965)
CBS 8674 La “Nueva forma” de … Miguel Saravia (1966?)
TROVA XT-80013 La importancia de una pausa (1972)
CABAL LPC-5011 De Miguel...
CABAL LPC-5046 Miguel Saravia
UNION Records UR1001 Nueva musica argentina (1977)

El personal estilo de...
De miguel


まだ未入手のアルバムがだいぶあるはずなので、ゆっくり集めていければと思う。
今回手元のアルバムを見直していて気がついたことがある。下のジャケット写真をご覧いただきたい。タバコを吸いながらギターを弾いている写真なのだが、タバコを右手の薬指と小指の間に挟んでいるのである。これはアグスティンがバーデン・パウエルがやっていることを知って真似していたのと同じスタイルである。ひょっとしてサラビアもバーデン・パウエルに感化されていたのだろうか。

死後35年、録音でふりかえるウーゴ・ディアスの偉大なる軌跡

死後35年、録音でふりかえるウーゴ・ディアスの偉大なる軌跡

 1927年、アルゼンチン北西部サンティアゴ・デル・エステーロに生まれたウーゴ・ディアスはわずか50年の人生の間にあまりにも多くの影響を残したアルゼンチン音楽におけるハーモニカ演奏のパイオニアである。
 幼くして事故で視力を失ったウーゴは病床でハーモニカを手にし、幼馴なじみだったパーカッション奏者ドミンゴ・クーラと共に早くから演奏を始めた。19歳の時、アルゼンチンで活躍していたパラグアイ・アルパ奏者の先駆者フェリクス・ペレス・カルドーソに見いだされ(実は彼に見いだされ、デビューのきっかけをつかんだアーティストは結構多い)、ブエノスアイレスでデビューを果たす。レコード録音を始めたのは1952年、以後の死の直前まで数多くの録音を残してきた。
 近年、初期の録音がまとめて復刻され、その録音歴のほぼすべてがCD化されたことになった。順番にまとめると次のようになる。

(1) アオラ BNSCD-915 アンソロジー初期録音集VOL.1 1952-1953(2枚組)
(2) アオラ BNSCD-916 アンソロジー初期録音集VOL.2 1954-1957(2枚組)
(3) アオラ BNSCD-920 アンソロジー初期録音集VOL.4 1967-1968(2枚組)
(4) アオラ BNSCD-921 アンソロジー初期録音集VOL.5 1970-1970(2枚組)
(5) ビクター VICP-62181~2 ハーモニカの鬼才~フォルクローレ名曲集(2枚組)2002年
(6) ビクター VICP-60902~3 魂のタンゴ・ハーモニカ ~ブエノスアイレスのウーゴ・ディアス(2枚組)1999年
(7) ECCOSOUND 00050 Homenaje a Carlos Gardel (アルゼンチン盤)1997年(※他にAqcua盤など数種有)
(8) Musimundo 806024 “Jazz”(アルゼンチン盤)1992年


(1)~(4)はAQCUA Recordsから出ているものだが、今年アオラ・コーポレーションから日本盤として配給され、私が解説を担当させていただいた。これによって一通りウーゴ・ディアスの録音がCD化されたことになるので、この機会に他の時期のものもあわせてまとめておく。上表を見て分かるとおり、本来なら(2)と(3)の間にあるべきアンソロジーのVOL.3だけがまだ出ていないが、これについては後述する。

初期のテーカー(TK)への録音はLP化されたものについてはほぼ(1)(2)で網羅されているが、SP・EPでしか出なかったものは漏れているようだ。
以下参考として私の手元にあるSP盤のデータをまとめてみる。
S-5088 Que se ha puesto el pago / Pájaro campana 1952
S-5165 Isla Sacá / Engañera 1953
S-5337 Indiana* / General Pinedo* 1953
S-5349 Tacita de plata / La barranquera 1954
S-5396 Selección de polkas / Recuerdos de Ipacaraí 1955
S-5419 La cortejada / Cantando se van las penas* 1955
S-5421 Allá en el atardecer* / Tiempo de alegria 1955
E-10091 La pena del chango / Cunumicita 1956/1955
E-10092 Polkita del reloj / Amor que vuelve* 1955
E-10094 Zamba del quebrachal / El puro ritmo* 1955
E-10157 Cascadas / Selección de chamames* 1957
E-10159 Chacarera doble / Tu tremendo silencio 1957
E-10160 San Baltasar / Selección de rancheras* 1957
E-10161 Por eso vengo* / Se ha ido* 1957
E-10207 El mensú / Danza paraguaya 1958
E-10456 La Salamanca / Cuando el diablo toca el bombo 1960


タイトルの後が録音年で、テーカーの場合、原盤番号の後ろに録音年がついているので、それによっている。おそらくこのリストの倍以上の録音は存在するはずだが、このリスト中だけでも*印の10曲が第1集、第2集共に収録されていない。
またこの期間の途中、1953~55年にはパンパ・レーベルで録音をしており(その一部はJuan Nicolas Díaz名義で出されているので契約上の問題もあったのかもしれない)、少なくとも12曲がアルゼンチンEMI 4085でLP化されており、53年分はCDの第1集、54~55年分は第2集に含まれている。

現在編集中の第3集は1958~1966年の間になるはずだが、いずれにしてもCDに表記されている録音年代はあまりあてにならない。第1集は1952~53年の録音となっているが、実際には1960年録音のはずのCuando el diablo toca el bomboやLa Salamanca、1958年録音のはずのEl mensúが入っていたりしている。

第3集の期間にはディスクジョッキーへの録音が含まれるはずだ。私の手元にあるのは17センチ盤4曲入り"Canto de pajaros"だけだが、他にもあるのか...。

Hugo Diaz EP


またヨーロッパに行っていた時期も含まれるはずだ。実はヨーロッパで1961年にボリビア生まれのリズム「スク・スク」をヒットさせ、「ミスター・スク・スク」と呼ばれたアルゼンチン人歌手アルベルト・コルテスのオリジナルヒット版「スク・スク」の伴奏は実はウーゴ・ディアスであり、他にもウーゴ・ディアスは当時のコルテスの伴奏にけっこう付き合っている。そういうものも含まれるのだろうか...

第4集と5集はRCAレーベルに残した5枚のアルバムを復刻したものである。オリジナル・アルバムは以下の通り。
(1) RCA Camden CAS-3072 “Magia en el folklore”
(2) RCA Camden CAS-3072 “Magia en el folklore vol.2”(=日本盤 RA-5713「アルモニカの哀愁」)
(3) RCA Victor AVLP-3996 “El arte de Hugo Díaz”(=日本盤 RA-5672「幻想のハーモニカ」)
(4) RCA Camden CAS-3252 “Mi armónica y yo”
(5) RCA Victor AVLP-4053 “Puro ritmo”


(1) と(2)が第4集、(3)(4)(5)が第5集に収録されている。
この後、レーベルがトノディスク系に移り、1977年に急逝するまでに8枚のアルバムを残した(はずである)。
(1)Tonodisc TON-1034 “Hugo Díaz en estereo” (1972) (=日本盤 Victor SWX-7049 「ビバ・フフイ」)
(2)Tonodisc TON-1035 "Hugo Díaz en Buenos Aires" (1972)(=日本盤 Victor SWX-7034 「ブエノスアイレスのウーゴ・ディアス」)
(3)Tonodisc TON-1049 "Hugo Díaz en Buenos Aires vol.2" (1973) (=日本盤 Victor SWX-7094「軍靴の響き」)
(4)Tonodisc TON-1075 "Hugo Díaz en Buenos Aires vol.3" (1974) (=日本盤 Victor SWX-7110 「ラ・クンパルシータ」)
(5)Tonodisc TON-1076 "Nostalgias santiagueñas" (1973) (=日本盤 Victor SWX-7099 「忘却のチャカレーラ」)
(6)Tonodisc TON-1097 "En el litoral" (1974)(IMPACTO IMP14078で再発)
(7)Tonodisc TON-1103 "Hugo Díaz para Gardel - 40 Años después" (1975)(IMPACTO IMP14017で再発)
(8) NG Records 6005 "Jazz" (1975?)
 

この時期になるとしらふでスタジオに入ることはほとんどなくなったと言われており、録音には息づかいやうなり声が聞こえ、酔いしれるような、気持ちをぶつけるような演奏が多くなっている。またタンゴ集が3枚ある。以前からタンゴはレパートリーにはあったようだが、録音したのはこの時が初めてのはず(RCAに録音したメドレー中に「泣き虫」があったが...)。それにしてもタンゴ集は素晴らしい内容。ぜひ再発を願いたいところである。
ちなみに以前の日本盤CD「ハーモニカの鬼才~フォルクローレ名曲集」には(1)(5)(6)の3枚分、「魂のタンゴ・ハーモニカ 」には(2)(3)(4)の3枚分が収められている。
 日本で発売されなかった(7)カルロス・ガルデル曲集はレーベルを変えたびたびCD化されてきた。最後のアルバムとなった初のジャズ集は伴奏陣がやや手軽な感じだが、昔から親しんできたであろうスタンダードを心ゆくまで吹いている。アルゼンチンのレコードチェーンである「ムシムンド」の企画盤として1度だけCD化されたが、まったく日本には入ってこなかったようだ。

彼の生涯を描いたドキュメンタリー映画「ア・ロス・クアトロ・ビエントス」はまだ見る機会に恵まれていない。そちらのサウンドトラックにもいろいろな録音が使用されている(AQCUA Records AQ187 “A los cuatro vientos” 2008)。そこで気になるのは、フォルクローレのアーティストで最も早くからテレビ出演していたというウーゴ・ディアスの映像は残っているのだろうか? この映画には何かしら使われているのではないかと期待するのだが、他のDVD等で見たことは一度もないと思う。
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